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中国のスキー愛好者に日本に来てもらいたい

星野佳路 星野リゾート代表取締役社長

来源:人民日報海外版日本月刊    作者:本誌副編集長 張桐

 

長期化するコロナ禍で日本の観光業界が苦戦する中、星野リゾートが運営するホテルの新規開業が続いている。2021年10月には中国浙江省に同社運営の新規ホテルが開業し話題になった。中国の春節前夜、星野リゾート東京オフィスを訪ね、同社の星野佳路代表取締役社長に、日本の観光業の将来ビジョン、アフターコロナにおける中国ビジネスの展望などについて伺った。

 

コロナ禍におけるホテルの運営力が強み

―― 100年を超える日本の老舗企業として、高級旅館やホテルを運営する御社は中国人観光客の間で大変有名です。長期化するコロナ禍で観光業界が苦戦する中、御社が運営するホテルの新規開業が続いていますが、御社の強みについて教えて下さい。

星野 バブル崩壊やリーマンショックのときなど、ホテル・旅館のオーナーがより強い運営会社を探そうという時に当社の運営案件は増えました。同様にコロナ禍の現在、オーナーや投資家の方が、コロナ禍によって業績が落ちたホテルや旅館などの運営をより強い運営会社に変えようという動きがあります。

そうした中、今まで培ってきた当社の運営力や予約を獲得する力などを見込まれ、お声がけしていただくケースが増えています。

日本国内の観光需要は約28兆円です。コロナ禍の前まで観光市場は好調でした。インバウンドも増えていましたし、日本国内の観光客も好調に推移していました。通常の場合、どこの会社が運営しても業績に差はあまり出ませんが、こうしたコロナ禍において、ご依頼いただく案件が増えているというのが当社の強みと言えるのかもしれません。

 

星野リゾート 嘉助天台

 

運営の力を活かせるならどこの国でも赴く

―― 2021年10月、「星野リゾート中国本土に初進出」との報道がありましたが、経緯についてお聞かせください。

星野 当社は運営会社ですので、所有も投資も行っていません。今回、中国・浙江省の天台山で開業した「嘉助天台」という施設もオーナーが別荘地を開発してホテルを建設しました。そこの運営を当社が任せられ、開業に至ったという経緯があります。

現在、中国本土、台湾、バリ島、ハワイの4施設でホテル運営をしていますが、世界各国の開発会社やオーナーから依頼されれば、どこの国でも運営の力を活かせる所に赴き運営するのが当社の仕事だと思っています。

 

高級リゾートの定義が世界的に変化

―― 中国では高級リゾートの需要が高まりつつあるとの報道もありますが、中国のホテル・観光市場をどのように見ていますか。アフターコロナにおける中国ビジネスの展望についてお聞かせください。

星野 中国のお客様に日本に来ていただきたいとの思いで、2000年代に入ったころから中国を訪問して市場の成長を見てきました。中国のホテルの変化はこの20年間で目覚ましいものがあり、現在、ホテルのサービスレベルは2000年頃に比べると格段に進化しています。

中国で高級リゾートの需要が一気に伸びたことは確かですが、世界では今、高級リゾートの定義が変わってきているのです。

高級=豪華ではなく、上質な滞在という定義に変化してきています。物質的な豪華さよりも体験価値、その場所・地域ならではの希少な体験を味わいたいという部分に対価を支払うという動きが世界の潮流になっています。

単に建築やインテリアの豪華さではなく、世界的な定義の変化に応じて、よりソフト面、体験的なものに対して希少性を感じ、顧客が対価を支払うというマーケットにシフトすると確信しています。今後、その動きが中国国内でも加速していくだろうと思います。

過去20年間の中国の変化を見ると、世界に追いつくスピードがものすごく早いので、今後、世界のホテル事情が中国に反映されるのもすごく早いのではないでしょうか。

豪華絢爛、立派さだけで競争するのではなく、サービス面、ソフト面でお客様に価値を感じていただけるようなビジネスになれば、当社にとっても進出しやすくなります。その意味で、中国国内の観光市場も変化していくことを期待していますし、当社としても力を発揮する機会に恵まれると考えています。

 

星野リゾート アルツ磐梯

 

中国のインバウンドは日本の観光産業に重要

―― 「観光を一流の産業にしたい」「日本の観光を『輸出産業』にしたい」と言われていますが、今後、日本のホテル・観光業にどのような変化が起こるのでしょうか。御社の将来ビジョンをお聞かせください。

星野 日本の観光産業はこれからも少しずつ変化していくと思いますが、大きな流れとしては人口減少により、国内マーケットが減少に転じていきます。28兆円という観光市場の中で、22兆円が国内市場です。人口減少によって、日本人による国内旅行が縮小していくことは非常に大きなインパクトになります。

当社としては、国内市場22兆円というのは非常に大きいと考えており、次の旅行世代を担う人たち、すなわち20代、30代の若い方々にフォーカスしています。こういう方々が10年後は30代、40代になりますから、その時に当社のファンになっていただくことを目指しています。

当社5つ目のサブブランドとして「BEB(ベブ)」という新しいタイプのホテルをつくったのですが、20代の若者がターゲットです。高級温泉旅館「界」も「界タビ20s」という20代をターゲットにしたプランを提供しています。

こうした国内での取り組みと同時に、日本の観光産業にとって重要なのはインバウンドです。インバウンドの成長は日本国内の観光市場の減少を補うだけのポテンシャルがあります。特に、比較的に近くて人口の多い中国からのインバウンド客はわれわれにとって大事なお客様です。

当社としては、今後も中国での案件があれば運営に携わりたいと思いますし、これまで同様に、中国から日本に旅行する際に利用していただけるリゾート、ホテル、旅館として、しっかり中国市場をマーケティングしていきたいと考えています。

 

 

スキーと食で楽しむ――中国は親近感が持てる国

―― 中国、そして中国人にどのような印象をお持ちですか。

星野 2005年に日本発滞在型リゾートブランド「星のや軽井沢」を開業したのですが、これは当社にとって大きなステップでした。

2000年代に入ってから毎年のように中国を訪問していますが、当時、中国籍のスタッフ3人が入社し、一人は今も北京にいるのですが、中国国内の事情をよく理解しているので、訪中する度に案内役をお願いし、上海や北京で当社の事業を紹介するプレス発表会を行っています。

実は私の趣味はスキーで、日本をはじめ世界中のスキー場で年間60日滑走するのですが、中国国内のスキー場にも2度行ったことがあります。2度目の2019年12月、ちょうどコロナ禍が始まるときでしたが、北京のスキー場で滑りました。

私自身が発起人となって作った「星野グルメスキークラブ」のメンバーと一緒に行ったのですが、本年2月に開催される北京冬季五輪の会場にも足を運びました。

当クラブのコンセプトはスキーと「食」をセットにして楽しむことですが、中国は本場の中華料理を楽しむことができる唯一の場所です。味や食の作法など、アメリカやヨーロッパでスキーをする時とは全然違う体験ができます。

文化と旅は、非常に密接に関係しています。旅をすることで、他国の文化や豊かさを感じることができます。

万里の長城の北側で滑った帰りに万里の長城にも登りました。中国は距離的に近い国であっても全く違った文化なのかもしれませんが、漢字を共有しているという点では、たとえ言葉が通じなくても文字を書けば理解できますので、すごく親近感が持てる国だと感じています。

 

 

北京冬季五輪の開催で訪日客増加に期待

―― まもなく北京冬季五輪が開催されますが、期待されていることはありますか。

星野 北京での冬季五輪開催によって、スキー、スノーボードの愛好者が大幅に増え、スキー、スノーボード市場が中国国内で急速に伸びると思っています。スキー場もたくさん増えていますが、雪の量では日本に及びません。そういう意味では今後、日本に行って滑りたいという愛好者が増えるのではないかと期待しています。

日本に来られた際には、当社が運営するホテルでスキーやスノーボード、そして日本食・日本文化を堪能してもらいたいと思います。北京冬季五輪はそうしたマーケットに対して良いインパクトを与える大会になればいいと考えています。

 

取材後記

取材終了後、恒例の揮毫をお願いすると、中国語で「歓迎到日本!(日本にいらしてください!)」と書いてくれた。社長自身のスキー歴は50年を超えており、中国のスキー愛好者がたくさん日本を訪れることを望んでいる。実は、星野リゾート所属の女性選手が北京冬季五輪に出場するという。彼女は昨年のスノーボード女子ビッグエアの世界ランキングトップで、五輪での活躍が期待されている。